動物の分類学から考えるイリオモテヤマネコの嘘

哺乳類
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イリオモテヤマネコは日本の天然記念物として、日本人に広く知られています。
しかし、日本の固有種と思われていたイリオモテヤマネコが、現在ではベンガルヤマネコの亜種として扱われていることはあまり知られていません。

なぜ今まで日本の固有種と思われていたイリオモテヤマネコが、ベンガルヤマネコの亜種になったのでしょうか?

この問題を考えるには、まず西表島(いりおもてじま)及びイリオモテヤマネコの発見に関する説明をしなければなりません。
イリオモテヤマネコは、1965年に作家の戸川幸夫氏が西表島で発見し、当時、国立科学博物館動物部長だった動物学者の今泉吉典氏によって学会で発表されました。
今泉氏はこのイリオモテヤマネコを、約1000万年前から約300万年前に出現した原始的なヤマネコの近縁である独立種だと発表したため、イリオモテヤマネコは『生きた化石』などと称され日本中で大きな話題となったのです。

そもそもの話ですが、みなさんは西表島がどこにあるかご存知でしょうか?
以下の地図をご覧ください。

地図で示すとおり、西表島は本州や九州はもとより沖縄本島よりも台湾に近い場所にある島です。
沖縄諸島は200万年前ほどに大陸と分離しましたが(120年前とする説などもある)、西表島を含む八重山諸島は約20万年前まで大陸と陸続きであったと考えられ、その後も海水面の上下動から大陸とかなり近い時期があったようです。
遺伝子解析によれば、イリオモテヤマネは18年前から20万年前にベンガルヤマネコと分岐したとされており、西表島が大陸と分離した時期とも重なっています。
現在、イリオモテヤマネコはベンガルヤマネコの亜種であるとされているわけですが、これは(環境やその生物にもよるでしょうが)20万年前に生活域が分離しても種の分離は起こらないということを示しているのです。

今泉氏が、20万年前に他の島と分離していた西表島で発見されたヤマネコを、独立種と考えたことは理解できます。
しかし、数百年前の原始的なヤマネコの生き残りという主張は相当無理があると指摘せざるを得ません。
実際にこの今泉氏の主張は、学会で発表された当時から疑いをもつ研究者が多かったそうです。
そしてこの今泉氏は、日本のオオカミ(ニホンオオカミ)もタイリクオオカミとは別種の独立種であると主張していた人物として知られています。
しかし今現在、日本のオオカミを独立種であると考える研究者はほとんどいません。

このような”動植物の発見時にそれを独立種であると主張すること”はよくあります。
なぜかというと、独立種であると認められればその発見者として後世まで名が残ることと、全滅寸前の独立種であると認定されれば極めて強い保護の対象になるからです。
当然、種の保全は極めて大事であり、私自身も最大の関心を持っています。

しかし、そのために行き過ぎた種の分類がされることは、本来の動物学から逸脱した結果を生み出してしまうのではないでしょうか?

以上、動物の分類が正しくされることを望み、当記事を終わりにしたいと思います。

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コメント

  1. 通りすがり より:

    ニホンオオカミに関しては、現生のタイリクオオカミと別系統という遺伝子調査結果が今年発表されてますので、今泉氏の説は間違いではなかったと思います。

    http://www.sciencemag.org/news/2018/09/ancient-japanese-wolf-may-be-rare-remnant-ice-age-wolves

    • 匿名 より:

      その調査結果が全然話題になっていないのは何故でしょう?
      もし本当だったらもっと大きなニュースになっているんじゃないでしょうかね。

      • 通りすがり より:

        そもそも、この情報が日本語に翻訳されて拡散されてないだけだと思います。情報の話題性で正否を判断するあなたの態度には疑問を感じざるを得ません。

        • 動物のランキング集『日々、動物ブログ』管理人 より:

          管理人です。

          リンク先のサイトを見ましたが、日本のオオカミについて別種や亜種などとは言及していないようです。
          リンク先の情報によると、日本のオオカミは35,000年以上前にシベリアから渡ってきたようですが、日本に渡ってきたオオカミと同じグループは既にユーラシア大陸に存在しておらず、後にユーラシア大陸に広がっていったグループとは別系統であるとの分析結果が出たとのことです。

          35,000万年前といえば人類が日本へやってきた時期と重なります。
          現世人類(ホモ・サピエンス)は、25万年前(場合によっては100万年以上前とする説もある)にアフリカで誕生し世界中に広がっていくのですが、日本人に繋がるグループとアフリカに残ったグループとは6万年から8万年前、あるいは10万年以上前から接触をしていません。(飛行技術などが発達した近年は除くが)
          しかし、現在の日本人とアフリカ人が別種であると主張する人はいないでしょう。
          35,000年という時間は、種の分離が起きるには短すぎるのです。
          そもそも本文にあるように、西表島に生息するベンガルヤマネコ(俗に言うイリオモテヤマネコ)は、20万年近く生息域の分離が起こっているにもかかわらず、種の分離が起こっていないと現在の科学では主張されています。

          つまるところ、日本のオオカミが他のオオカミと別種であるというのは、相当に無理がある話ということです。
          そして、そもそも私はコヨーテやキンイロジャッカルもオオカミと同種であると考えており、そのことは
          http://animal-web.jpn.org/post-11/
          上記で記事にしています。

          また、2番目のコメントにあるとおり、日本のオオカミ(ニホンオオカミ)が独立種であるという論文なりが発表されればテレビのニュース番組で確実に放送されるレベルの話なので、リンク先の情報は、そもそも別種や亜種などという主張でないことがわかります。

  2. 通りすがり より:

    リンク先には、DNA鑑定の結果で明らかに現生のタイリクオオカミとは異なる要素の遺伝情報が検出されたと書いてありますが…?別種レベルの差違かどうかはともかく、異なる遺伝系統を保持しているのであれば、もはやタイリク種と同一とは言えないと思います。

    あと、ニュースだの話題性だの言われてますが、これに関する情報を日本語に紹介している記事を一つとして見つかりませんでしたが、この情報自体は果たして日本において無視するに値する情報なのでしょうか? 全くそうは思いません。少なくとも、新たな観点として紹介されるべき話である筈なのに何一つないというのは、そもそもこの情報が日本の学会にもメディアにもほとんど伝わっていないと考えるのが自然じゃないでしょうか?

    英語の情報も探してみました。仮にこの話がしょせん与太に過ぎないレベルであれば英語でも反証記事が今頃出ている筈ですが、その形跡すらないという事は、外部発信が殆どされていないという事とも考えられます。

    • 動物のランキング集『日々、動物ブログ』管理人 より:

      通りすがりさんのコメントについて、3点指摘させていただきます。

      【リンク先の記述について】

      まず、リンク先サイトに『DNA鑑定の結果で明らかに現生のタイリクオオカミとは異なる要素の遺伝情報が検出された』とコメントしていますが、私が調べる限り、日本のオオカミ(以下、ニホンオオカミ)のDNAについて、

      『2万年前まで北半球に広がっていた古代オオカミ群の名残のように見える』
      『35,000年以上前にシベリアに住んでいた大昔に絶滅したオオカミのDNAに似ている』

      ということしか書かれていないと思います。
      どの部分に『DNA鑑定の結果で明らかに現生のタイリクオオカミとは異なる要素の遺伝情報が検出された』という記述があるのでしょうか??
      記事のタイトルを見ても、『古代の日本のオオカミは、氷河時代のオオカミの珍しい名残なのかもしれない』というもので、ニホンオオカミのことを別種だとか亜種だとかについて言及もしていません。
      そもそもオオカミを普通に一括りにしたような書き方で、別種亜種ということを考えてすらいないように感じます。

      【ニホンオオカミとタイリクオオカミの種の違いについて】

      DNA鑑定は犯罪捜査で使われることからも分かる通り、個人までをも特定することができます。
      このことは言い換えれば、1人1人が違うDNAをもっているということで、通りすがりさんの理論なら、『1人1人が別種である』という主張まで可能になってしまいます。
      当たり前の話ですが、種を決定付ける際に大事なのはDNAによる分析ではなく、

      『子孫を残せるかどうか』

      ということが1番重要になります。
      ニホンオオカミは絶滅していますが、イヌとの間に繁殖能力の備わる子孫が残せ、そしてそのイヌがタイリクオオカミとの間で子孫を残せるので、ニホンオオカミとタイリクオオカミの間も交配可能なことは確実です。
      ニホンオオカミとタイリクオオカミの間子孫が残せる時点で、この2種が別種である可能性は極めて低いと言わざるを得ないでしょう。

      このいった話は、日本人がどこからやってきたかという話に似ています。
      日本に人類がやってきたルートは、

      ・朝鮮半島からの対馬ルート
      ・台湾からの沖縄ルート
      ・サハリン島からの北海道ルート

      があり、これらルートの詳細をDNA分析で紐解こうという研究は随分前から行われていますが、どの場所から来たとしても、やってきたのが人間(ホモ・サピエンス)であることに違いはなく、あるのは民族的な違いでしかありません。
      オオカミの話も同じで、たとえニホンオオカミがどこからやって来て、タイリクオオカミと異なるDNA情報をもっていたとしても、オオカミ(タイリクオオカミ)であることに違いはないのです。

      【情報が世間に伝わっていないという話について】

      リンク先の記事が掲載されたサイトは、『Science』という1880年に創刊された世界で最も権威のある学術雑誌のサイトです。
      このようなサイトに掲載されたオオカミの情報が、オオカミの専門家たちに間に伝わらないということは、万が一どころか億が一もありません。
      なぜこの話題が取り上げられないかというと、それはこの話題が大した話ではないからです。
      上記したようにリンク先の情報は、ニホンオオカミをタイリクオオカミの別種であるとか亜種であるという話ではなく、古代のオオカミの広がり方についてDNAを使って調べました程度の話で、ニュースにもならなければネットの記事にすらなっていないのは、話題にするようなレベルの話でないためです。

      通りすがりさん自身が探したように、リンク先の話は日本でもアメリカでも全く話題になっていません。
      オオカミの別種または亜種発見という大きな話だったら、日本はおろか英語圏でも全く記事にされないなんて現象が起こるでしょうか?
      それが起こっているという現実は、リンク先の記事が与太話でもなんでもなく、そもそも大した話題ではないので広がっていないに過ぎないのです。

      つまり今回の話はの程度の話ということで、ここで長文を使って話をするようなレベルの話ではないと思われます。

      こちら側からの返答は以上となります。
      貴重な情報およびコメントありがとうございました。